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若林恵×出口亮太 文化施設の役割再考。そもそも文化はなぜ必要? - CINRA.NET(シンラドットネット)

うごめくカルチャーと共に生きることは、どこかで社会とつながって生きることだ。ならば、「文化の社会的役割とは?」という問いは、しゃらくさいと切って捨てるのでも、行政や事業の運営者のみが考える問題でもなくて、私たちの日々と強く結びついたトピックであるはず。

2015年から「長崎市チトセピアホール」を運営し、その斬新な取り組みから全国的な注目を浴びるようになった出口亮太と、コンテンツレーベル「黒鳥社」主宰の編集者・若林恵。2人がじっくりと語り合ったのは、今「文化」は「公共」の夢を見ることができるのか、という可能性についてだった。

文化施設の社会的な機能とは何なのか、大きなテーマになってきている。(若林)

―昨年2019年7月に、チトセピアホールで若林さんを招いた講演会を開催されたそうですね。

出口:そもそも僕が若林さんのことを強烈に意識するようになったのは、編集長を務めていらした『WIRED』日本版の「NEW CITY」特集(Vol.24、2016年8月発売)に載っていた文章なんですよ。さしたるコンテンツもないのにハコモノを作ってどうするんだ、という内容でした。若林さんの単著『さよなら未来』にも収録されていますね。

出口亮太<br>1979年長崎市生まれ。2015年、若干35歳で長崎市チトセピアホールの館長に就任、これまでに50本あまりの企画を運営。近年では、ホール内での事業にとどまらず、教育機関や医療機関、地元のNPOとの協働事業を企画運営しながら、現場での実践をもとにした公共文化施設についての講義を県内の大学でも行う。また、近隣の公共施設と連携し長崎市チトセピアホールで企画した事業を巡回させるネットワーク作りも行っている。
出口亮太
1979年長崎市生まれ。2015年、若干35歳で長崎市チトセピアホールの館長に就任、これまでに50本あまりの企画を運営。近年では、ホール内での事業にとどまらず、教育機関や医療機関、地元のNPOとの協働事業を企画運営しながら、現場での実践をもとにした公共文化施設についての講義を県内の大学でも行う。また、近隣の公共施設と連携し長崎市チトセピアホールで企画した事業を巡回させるネットワーク作りも行っている。

―「Pitchforkとバワリー・ボールルーム」という文章ですね。

出口:身内や業界の内側でそんなことを言ってくれる人は意外といないし、行政もハコを建てることありきで話を始めてしまいがち。そこをスパッと鋭い切り口で書いていらして、ぜひ、チトセピアホールで行っている『あたらしいハコモノのカタチ』という文化講演会のシリーズでお呼びしたいな、と思ったんです。

2019年7月8日、長崎市チトセピアホールで行われた自主事業「若林恵 文化講演会『あたらしいハコモノのカタチ』」講演の様子
2019年7月8日、長崎市チトセピアホールで行われた自主事業「若林恵 文化講演会『あたらしいハコモノのカタチ』」講演の様子

若林:そもそも文化施設を作るということが何をもって正当化されてきたのか、という話を、僕としては珍しく真面目にプレゼンしたんですよ(笑)。そもそも、「文化」ないしそれにまつわる装置には、ある種のコンテクストが埋め込まれている、と。

一つは近代化のなかで、「国民をきちんとした近代人へと教化していく」という立てつけにおいて正当化されてきた、というコンテクスト。たとえば戦後日本でも、新しい民主国家として国民を育てていくための文化行政、という意味合いがあったわけです。しかし、このようなトップダウンの「教養」は、今では疎まれるようになった。

一方で、産業社会における市民が楽しむ余暇、というコンテクストがある。こちらは消費文化との接点において、たとえば六本木などに私営の美術館といった文化施設が建てられていったわけです。けれど、市場に委ねたために経済的な合理性に見合わない文化は扱いづらくなってきてしまった。

若林恵<br>1971年生まれ。編集者。ロンドン、ニューヨークで幼少期を過ごす。早稲田大学第一文学部フランス文学科卒業後、平凡社入社、『月刊太陽』編集部所属。2000年にフリー編集者として独立。以後、雑誌、書籍、展覧会の図録などの編集を多数手がける。音楽ジャーナリストとしても活動。2012年に『WIRED』日本版編集長就任、2017年退任。2018年、黒鳥社(blkswn publishers)設立。
若林恵
1971年生まれ。編集者。ロンドン、ニューヨークで幼少期を過ごす。早稲田大学第一文学部フランス文学科卒業後、平凡社入社、『月刊太陽』編集部所属。2000年にフリー編集者として独立。以後、雑誌、書籍、展覧会の図録などの編集を多数手がける。音楽ジャーナリストとしても活動。2012年に『WIRED』日本版編集長就任、2017年退任。2018年、黒鳥社(blkswn publishers)設立。

―旧来の2方向の「文化」が、共に手詰まりなんですね。

若林:既存のコンテクストと、それを享受する側の人間の感覚がもはや乖離しだしている中で、もう一度どのように結び合わせるのか。文化施設の社会的な機能とは何なのかということが、大きなテーマになってきているわけです。

ただ東京はそれでも、無理やりマーケットソリューションで……つまりかろうじて金回りがいいことで課題を解決してしまえるところがある。一方で地方は、予算も含めたスケールが小さい分、危機感が強いだろうし、状況に対して小さな穴をプスプス開けている人がいると思うんですね。それこそ出口さんのような、熱心というか、変な人もいるわけですし(笑)。

出口:僕は民間の管理会社の人間でして、2015年から指定管理者としてチトセピアホールを運営しています。いわゆるPPP(Public Private Partnership、公民連携)の枠組みですね。自主事業として、今年度であれば劇団のマームとジプシーや、古典芸能では浪曲師の玉川奈々福さん、春風亭一之輔師匠など、「今」の表現者の方々にお越しいただきました。先ほど触れた文化講演会も、この自主事業の一環ですね。

マームと誰かさん(穂村弘×マームとジプシー×名久井直子)『ぬいぐるみたちがなんだか変だよと囁いている引っ越しの夜』 / マームとジプシーにとって初の長崎公演が実現した
マームと誰かさん(穂村弘×マームとジプシー×名久井直子)『ぬいぐるみたちがなんだか変だよと囁いている引っ越しの夜』 / マームとジプシーにとって初の長崎公演が実現した
第十二回千歳公楽座『玉川奈々福 独演会』
第十二回千歳公楽座『玉川奈々福 独演会』

出口:自主事業にかんしては長崎市からの事業予算がゼロなので、チケットの売り上げ、あとは助成金や協賛金で賄っています。たしかに企業は、利益を追求するものなのかもしれません。でも文化施設はもっと面白く、同時代的であるべきだと考えて活動することで、一定の成果を出しながら、少しずつ認知も高めてこられたと考えています。

―出口さんは以前のインタビューで、「文化は大事だから大事」というトートロジーの論理では、外に開かれた公共性が生まれない、という話をしていましたね。

若林:本当にそうだと思う。僕は2018年、パスカル・ロフェという指揮者とのトークイベントに、作曲家の藤倉大さんと一緒に出たことがあるんですけど、そのときの話が面白くて。

―フランスを代表する指揮者で、コンテンポラリーの世界でも有名な方ですね。

若林:僕はトーク相手としてちょっかいを出してやろうと思って、「そもそも自分はオーケストラというものがすごく嫌いだ」と話したんですよ(笑)。オーケストラは、近代の軍隊のモデルに依るものだろう、と。そうしたらパスカル・ロフェは、顔を真っ赤にして怒り出したんです。

左から:若林恵、出口亮太

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March 04, 2020 at 05:01PM
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